※このnoteは、2020/06/22 午後7時30分にRagdollさんとREALITYにて配信した内容の見解をまとめたものです。配信後、代表がYouTube視聴機能についての見解が示した画像を添付したツイートを発見した為、末尾に追記を行っております。
こんばんは、Yui Asagaiです。
2020/06/17に、REALITYの機能追加として「配信中にYouTubeの動画を視聴できる機能」(以下、「YouTube視聴機能」とする)が追加された。
この機能については、他者の動画を自身の配信にて視聴するという点から、著作権侵害に当たるのではないか、またYouTubeが定める利用規約に反しているのではないか、という可能性を感じた(以下、「当事象」とする)。
ここでは、YouTube視聴機能が適法かどうかを検証すると共に、配信事業を介した配信者と著作者の関係性について検証する。そしてそれを踏まえたうえで、音楽クリエイターであるYui Asagaiとして同機能に対しての見解を述べる。
なお、REALITYの利用規約においては(第13条第1項)以下のように記載がある。
会員は、本アプリ内において会員が自ら配信、送信、投稿、登録、表示(中略)する全ての情報(中略)について、必要な一切の権利処理及びクリアランス等(中略)を、自らの責任と費用で行うものとします(後略)。
REALITY利用規約 第13条第1項より
https://reality-public.akamaized.net/legal/terms_of_use.html
そもそも、当事象の議論は、配信内容の権利処理については配信者が行わなければならないと規約に定めているにもかかわらず、YouTube視聴機能において、どのように権利処理が行われているか明確にされていない事が一因であると筆者は考える。REALITYが機能の適法性について説明を果たさない一方で、機能を利用した事により発生した損害については会員(配信者)が負担しなければならない状況は、会員の事を重んじたものではないと私は思う。
この規約を踏まえ、当記事内においてはYouTubeサービスの提供者であるGoogle LLC、並びにREALITYサービスの提供者である株式会社Wright Flyer Live Entertainmentのいずれにも、直接の確認を行っていない。現在各社が公表している利用規約やサービス概要等を基にしている為、YouTube視聴機能の実際の様態やシステムとは一部乖離がある可能性があるが、REALITYの一ユーザーとして、REALITYが定める利用規約に沿って検証を進める為には必要な要件となる為、予めご了承いただきたい。
YouTube視聴機能の概要
同機能についてREALITY運営事務局(以下、「事務局」とする)はREALITYアプリ(以下、「アプリ」とする)の2020/06/17 15:55発信分の「お知らせ」にて、以下のように発信している。
本日、配信中にYouTubeの動画を視聴できる機能を追加いたしました。(中略)配信中にYouTubeで好きな動画を検索し、視聴者と一緒にYouTubeの動画を見ることのできる機能です。
アプリ内 2020/06/17 15:55発信分お知らせより
YouTube視聴機能の使用手順は次の通り。コラボをOFFにした上で配信者が動画を選択する事で、配信中にYouTubeの動画を視聴する事ができる。また、視聴者がYouTube動画を表示させるかどうかは選択できない。注意事項として同お知らせ内では8点挙げられているが、重要なものを抽出する。
視聴者側も動画の停止をすることが可能です。再生を押すと配信者の視聴中の動画の再生タイミングに自動で同期が行われます。
アプリ内 2020/06/17 15:55発信分お知らせより
視聴者側に出来る事は任意のタイミングで動画を一時停止させることであり、シークバーを用いた再生開始時間の指定や、再生動画の指定は視聴者側にはできない。
YouTube視聴機能に対して抱く疑問点
YouTube視聴機能は使い方によっては良いものにもなり、悪いものにもなりうるとするのが筆者の立場である。配信者自身が著作権を有する動画を、同機能を用いて視聴する分には有用な使い方であると考える。一方で、自身が権利を有しない動画を同機能を用いて視聴する分には、著作権の侵害及びYouTube利用規約において疑問点が残る。この双方を検証する事で、同機能に対しての筆者の見解を述べていく。
そもそも著作権法とは?(著作権法第1条)
YouTube視聴機能と著作権法との関係性について論ずる前に、著作権法が目指すことを確かにしておきたい。著作権法第1条(目的)では、以下のように記載がある。
この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。
著作権法第1条より
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=345AC0000000048#2
目的規定である第一条の役割・効用は、参議院法制局のとあるコラムで次のように記載されている。
目的規定は、その法律の制定目的を簡潔に表現したものです。(中略)これらの規定は、それ自体は具体的な権利や義務を定めるものではありませんが、目的規定は、裁判や行政において、他の規定の解釈運用の指針となり得ます。
参議院法制局 法律の「窓」 目的規定と趣旨規定より
https://houseikyoku.sangiin.go.jp/column/column078.htm
著作権法の第一条をまとめれば、著作権法は著作者(著作物を作成する者)の権利保護を目的とし、そして究極の目標として文化の発展を掲げているとう事が述べられる。著作権法が著作者の権利保護を第一にしており、後に続く規定の運用はこの第1条を踏まえて解釈されるべきだと明確にしておく。
法律上問題はあるのか?
YouTube視聴機能を用いて再生する動画の著作権者は、概ねその動画の投稿者(=動画の作成者)であると考えて良い。例外的に、動画の投稿者が動画の作成者でないケースがあるが、そのケースについては後述する為、ここでは触れないでおく。YouTube視聴機能を考えた際、動画の投稿者が保護を受ける権利は「公衆送信権(インターネット等で公衆に向け、著作物を送信する権利)」等が考えられる。
ここで考えたいのは、事務局がYouTube視聴機能をどのように説明しているか、という点である。上記引用にもある通り、事務局は同機能について「配信中にYouTubeの動画を視聴できる機能」としている。視聴という言葉が示すところは、YouTube上の動画をあくまで見ているだけという姿勢である。
つまり、YouTube視聴機能を用いた配信において配信者は、アバターを介し自身の思想や感情を発信する配信者としての役割と、YouTube上の動画を視聴する視聴者としての役割を兼ねている(配信者は「配信者」と「視聴者」を兼ねる)という事である。著作物(YouTube上の動画)のデータを配信者自身が公衆(視聴者)に向け送信しているわけでもない。配信者はどの動画を視聴するか指定しただけであり、実際には配信に関わる全員(視聴者だけでなく、配信者も含む)がYouTube上の著作物のデータに自身の端末でアクセスをしている為、著作権法上は問題はないとするのが事務局の考えでないかと筆者は考える。
動画自体の著作権を考慮する必要はあるか?
少し前で述べた、動画の投稿者が作成者でないケースを考える。この場合で恐れるべきは、動画の投稿者が著作権を有していないケースである(いわゆる無断転載や違法アップロードとされるもの)。違法アップロードされた動画を再生対象として指定する事で、何らかの罪に問われるのではないかという疑念である。
このケースに関しては、配信者が「配信者」と「視聴者」を兼ねるという説明が通用する限りは問題ないと考える。2020年3月10日に文化庁は「侵害コンテンツを見ただけで違法となってしまうのか?」の問いに対し、以下のように回答が為されている。
今回の改正によって違法化されるのは、あくまで、侵害コンテンツを意図的・積極的にダウンロードすることであり、侵害コンテンツであっても、単に視聴・閲覧するだけであれば、違法とはなりません(もちろん、政府として、そのような行為を推奨するものではありません)。
侵害コンテンツのダウンロード違法化に関するQ&A(基本的な考え方)より
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/r02_hokaisei/pdf/92080701_01.pdf
YouTube視聴機能において、YouTube上の動画については配信者は視聴者として視聴しているに過ぎないという立場でいる限りは、文化庁が示した解釈に基づき違法ではないという事である。DJ RIO氏(プロフィール内には、運営企業である株式会社Wright Flyer Live Entertainmentの代表である旨の記載があった。以下、「代表」とする)が以下のように述べているのも上記に準拠したものである為と考える。
原盤権の問題は?
REALITYがYouTube視聴機能について「再生」という立場を取っている以上、配信者においては原盤権に依る著作権使用料の支払い義務は発生しない。その代わりに動画に関わる著作権者は、視聴分として広告再生による支払いをYouTubeより受け取ることができる。
原盤権に依る著作権使用料の支払いが発生しないのは、あくまでこのケースのみであると考えられる。例えば、配信者が自らの声等と権利を有していない著作物をミックスしてアップロード(配信)した場合は当然、支払い義務が発生する(公衆送信権の侵害にあたる)。
だが、原盤権はJASRACではなく音楽レーベル各社(プロ)もしくはアーティスト本人(インディーズ)が有しており、窓口としては各社法務部の連絡先が記載されている場合もあり、一個人が原盤権の申請を行うのは非常にハードルが高いと言わざるを得ない。
一例としてエイベックス株式会社が参考金額を掲示していたので掲載する。
https://avex.com/jp/ja/contact/copyright/
YouTube利用規約について
https://www.youtube.com/t/terms
次は再生元であるYouTubeについて考えてみる。
ページ中程の「許可と制限事項」という項目には次のような記載がある。
お客様は、本契約および適用される法律を遵守する限り、本サービスにアクセスして利用できます。お客様は個人的で、非営利目的の用途でコンテンツを視聴できます。また、埋め込み型 YouTube プレーヤーに YouTube 動画を表示させることもできます。
YouTube利用規約より
YouTubeサービスへのアクセスは、個人利用及び非営利利用の用途に限られると記載がある。また、後半の埋め込み型YouTubeプレーヤー(以下、「プレーヤー」とする)については、仮にアプリ内におけるYouTube動画の再生にプレーヤーを使っていると思われるが、それ自体も問題ないことになる。
次に第9項の部分を見てもらいたい。
本サービスを個人的、非営利的な用途以外でコンテンツを視聴するために利用すること(たとえば、不特定または多数の人のために、本サービスの動画を上映したり、音楽をストリーミングしたりすることはできません)。
YouTube利用規約より
この形態を考えれば、YouTube視聴機能が果たして個人的にコンテンツを視聴していると言えるのかどうかは一概には言えないと思う。著作権に関する内容のところでも触れたが、YouTube視聴機能においては配信者と視聴者が、同じ動画を同時に視聴する体裁になっている。しかし、形式的には配信者並びに視聴者各々がYouTube上の動画を再生している事になっているが、実質的には配信者が再生に関しては操作権を握っている。
仮に個人的な視聴だとするのならば、配信者・視聴者の立場に関わらず、視聴する動画やタイミングに関して選択の自由があるべきである。その機能が制限されている以上、個人的な使用であるとは必ずしも言えないのではないかと思う。
次に考えてほしいのが、「非営利的な用途」である。
REALITYにはアプリ専用通貨であるコインが存在する。配信者は、視聴者がコインを使用して購入したギフトを配信中に受け取ることでLIVEポイントを取得でき、3,000ポイント以上でAmazon / Google Play / App Store & iTunesで使えるギフトコード2,500円分に交換できる他、銀行口座を登録することで月末に6,000ポイント以上を所持している場合、源泉徴収税を控除した金額分が振り込まれる。今回のケースで考えれば、YouTube上の動画を視聴すること自体は利益を生まないが、アプリ上でYouTubeの動画を視聴しながらコインを収集できる為、営利活動であると判断できる可能性もある。なぜならコインは銀行振り込み等を介して換金ができる為、営利目的であると判断される可能性は否めない。
YouTubeの利用規約から若干話が離れるが、例えばアフェリエイト(広告)収入を得ることを目的としたブログならばどうなのか。YouTube視聴機能と同じく、YouTubeプレーヤーをコンテンツ内に埋め込んでいる事から、ブログの運営者自身が動画を配信しているわけでもない。いわば、ブログ内の一コンテンツとしてYouTubeを使用している体裁である。この点について、公開が2013年と少し古い記事であるが、ITmediaビジネスオンラインにてJASRACの担当者を招いた議論が掲載されていたため、一部引用する。
個人サイトやブログなどでアフィリエイト収入がある場合は、商用と見なされ許諾が必要になり使用料の支払いが生じるのは本当だろうか。「原理原則論からいえば、個人でも広告収入があれば許諾は必要。問い合わせの窓口で、アフィリエイト収入=商用と判断するのは当然」
「有名アーティストの動画をブログに埋め込んだら使用料を請求されるのか?」より(一部筆者要約)
(中略)
「今や多くの個人サイト、ブログがアフィリエイトを導入している。有名曲の歌ってみた系動画が埋め込まれているからといい、それらすべてに対しダメ出しするのは非現実的な話だ。あまりに派手にやっているのは問題があるが……」
「動画サイトの利用者が増加し、アーティスト側からすると動画サイトがプロモーションの場として利用されている昨今、権利者、投稿者、動画サイト、JASRAC、動画利用者と、それぞれにメリットがもたらされるエコシステムが形成されている。白か黒かで一刀両断に断ずることはできない」
https://www.itmedia.co.jp/makoto/articles/1309/27/news003.html
JASRAC担当者が述べている原理原則論とは「著作権法に従って」と解釈できる。法律上はでは商用利用であり許諾申請は必要であるが、すでにアフェリエイトブログへのYouTubeプレーヤーの埋め込みは既に市民権を得ているだけでなく、YouTubeを活用した音楽ビジネスモデルでは遍く関係者に利益をもたらしている為、おいそれと排除する事はできない、という事である(一概な排除は文化発展の芽を摘むことに繋がるため)。
つまり著作権法に従った解釈では、収益が発生する限りYouTubeプレーヤーであろうとJASRACへの許諾申請が必要であるということである。REALITYアプリでも同様ではないだろうか。アプリ上にはYouTubeプレーヤーが埋め込まれており、そのアプリを介した配信を閲覧し、コインをプレゼントする。これらの点を踏まえ、YouTubeプレーヤーを用いたYouTube視聴機能はYouTubeが定める利用規約に抵触する可能性が決してないとは言えない。
最後に、ページ中程の「お客様のコンテンツと行動」内の「他のユーザーへのライセンス付与」を見てほしい。
また、お客様は、本サービスを利用する他の各ユーザーに対して、本サービスを通じてコンテンツにアクセスし、(動画の再生や埋め込みなど)本サービスの機能によってのみ可能な方法で、複製、配信、派生的著作物の作成、展示、上演などのかたちでコンテンツを使用する世界的、非独占的な無償ライセンスを付与するものとします。明確にするために付記すると、このライセンスは、本サービスから独立した方法でコンテンツを使用する権利や権限を与えるものではありません。
YouTube利用規約より
アプリ内にYouTubeの動画を埋め込む形で使用していると推測されるアプリでは、上記の記載の為、この点は利用規約に反していないと言える。
著作権法とYouTube利用規約を検証した結果
これまでの検証を踏まえるに、アプリ上でのYouTube動画の再生が「視聴」であるとみなされる限りは、YouTube視聴機能を利用した配信自体に違法性はなく、また同機能はYouTube利用規約においては、必ずしも抵触しているとは言えず、YouTubeがどのように判断をするかによると言える。
ただし、YouTube視聴機能を用いた配信を見れば、視聴者の立場からはYouTube上の動画を「配信」しているのと違わない。YouTube上の動画とREALITYにおけるアバターは同一アプリ上にて視聴ができ、かつ不可分である為である。しかし、実際のデータのやり取りとしては配信者が「アップロード」しているのは、マイクで収音した自身の声や楽器の演奏音、カメラが認識した映像(配信者の動きを認識し、アバターの動きと同期させる)であり、YouTube音声に関してはサーバー上で重ね合わせているに過ぎない。そもそも、今回の疑問の要因となったのはこの点(視聴者が配信と認識しているもの≠配信者がアップロードしているもの)が誤って認識されていた為である。配信者はYouTube上の動画データを複製もしていなければ、アップロードもしていない。実態は、配信はしているが、アップロードはしていないという所である。いわば著作権法が定めるところの隙間を縫った機能である。
しかしながらこの機能には問題点がないわけではない。
<追記>
6月22日の配信後、上記のツイートを発見しました。代表のアカウントから発信されたものであるとの客観的な確証は当ツイートから確認する事ができませんが、引用画像において「回答」とされている部分において、「お知らせ」にて告知された機能の詳細と一貫性があること、および「視聴」である限り違法ではないとする立場について明確にしている事から、一定の信用度はあるとして同ツイートを引用いたします。
YouTube視聴機能が「視聴」である以上、現在の法律においては問題ではないという結論を踏まえた上で、これ以降の記載に関しては、引用画像内において指摘されている、同機能に対しての音楽クリエイターとしての意見を述べたものです。
<追記終り>
他サービスに依存するREALITY
YouTube視聴機能を用いた配信において、YouTubeの動画分は配信ではなく視聴であると解釈されるのならば、YouTubeの動画分についてREALITYは著作権処理を行う必要がなくなり、著作権処理の義務はYouTube側に発生する。YouTubeはJASRACと個別の利用許諾契約を締結している他、自社機能であるContent IDを用いて原盤権処理を行うことが可能になっている。実態はYouTubeの動画も用いた配信であるにも関わらず、YouTubeで著作権処理が済んでいる為、REALITYは自社において著作権処理を行う必要はないという姿勢を取る事である。
著作者の保護はどこに?
冒頭を振り返ってみてもらいたい。著作権法第1条では、著作権法は著作者の権利保護を目的としていること、そして著作権法はその目的規定を踏まえて運用されるべきだと述べた。
著作者の権利としては著作財産権と著作者人格権の二つに大別される。問題となるのは著作財産権である。YouTube視聴機能を用いた場合、配信の実態としては配信の一コンテンツとしてYouTube動画を使用しているが、解釈上は配信ではなく視聴とされている。視聴と解釈する限り、配信者は自身の配信に動画や音声を用いつつも、著作物使用料の支払いを免れることができる(例えば音楽レーベルが原盤権を有する著作物を使用する場合、YouTube視聴機能が配信とみなされるならば、作曲者・作詞者、そして原盤権の保有者である音楽レーベルに対し、それぞれにインターネット配信という用途を考慮した上での著作権使用料の支払いをしなければならない)。
事務局が主張する視聴という形態が仮に認められるのであれば、音楽コンテンツを制作・提供する一著作者である筆者としては、非常に腹立たしい限りであると言わざるを得ない。配信者は著作権法の隙間を縫うことで、通常求められる著作物使用料の支払いを免れることができる為である。
とは言え、腹立たしいと述べるだけでは有用な説明を行っているとはならない。以降には、事務局が主張する視聴という形態に関しての反論を述べたものである。
ブランディング目的の使用
ブランディングとはイメージの構築及び定着である。企業において同業他社との差異を明確にするためにもブランディングは必須である。コーポレートカラーやコーポレートカラー・シンボルマーク、キャッチコピー等を定める事ががブランディング戦略の一環である。その一つに、商品イメージの定着がある。具体的には「この商品を販売しているのはこの会社」というように、商品を見てそのメーカーが連想されるようにすることである。
ではREALITYにおける配信者におけるブランディングとは何なのか?それはアバター(配信者自身)の差異化である。アバターには、「外観」「プロフィール」など複数の要素がある。これらを配信者は自ら行う配信を通じて拡張させ、視聴者に訴えかける。いわばこの配信が、配信者にとっての商品である。視聴者はブランディングされた配信を通じてアバター(並びに配信者)を認知し、記憶する。YouTube視聴機能を用いた配信の場合、視聴者が認知するのは、配信者がアップロードしたデータのみならず、同アプリ内で再生されるYouTube動画も同様にアバターの一つのキャラクター性として認知する。YouTube動画はアバターのブランディングに否応なしに「使用」されるのである。
この事実を踏まえれば、配信者は自身のブランディングに使用しているのだから、YouTubeの視聴動画にあろうとも、それ相応の金額(音楽の場合は、音楽利用許諾料)を支払うべきである。しかし、YouTube視聴機能を介して支払われるのは「視聴」実績分の金額である。一クリエイターとしてこの仕組みには憤慨するのみである。
「視聴」と「配信」はどう違うか?
ある著作物について視聴する場合と使用する場合では、視聴者(配信者)に対して著作権者から許諾されている内容は異なる。例えばあるアーティストのシングルCD(4曲入り)を購入した場合を考えてもらいたい。CDを購入するという行為は、現に存在するそのCD(実物)及び内包されるデータの所有権を取得するという事である。この場合、視聴者はCD及び内包されるデータを、個人利用の範疇及び著作権法が定める例外的ケースにおいてのみ自由に使用できる。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/gaiyo/chosakubutsu_jiyu.html
この例外的ケースに、配信は含まれない。その為、CDに内包されるデータを配信で用いたい場合は、CDの購入金額とは別に、著作権者に対して音楽利用許諾料の支払いを行い、著作権者から権利許諾を得なければならない。
「視聴」と「使用(音楽利用許諾)」では、著作権者に支払われる金額が異なることは明白である。
音楽に関して言えば、音楽ストリーミング配信事業の大手であるSpotifyでは1ストリーミング(配信)につき約0.1円が、Spotifyからディストリビューター(SpotifyやiTunes Music等のストリーミングプラットフォームへ音楽を配信する事業者)支払われる。大手レーベルなど、著作権者がディストリビューターを兼ねる場合ならば、Spotifyから支払われた全額が個々のアーティストへの分配の原資となるであろう。
ただし、インディーズ等ディストリビューターと個別に契約しているアーティストの場合、手元に入るのは、ストリーミング配信事業者から支払われた金額からディストリビューターの手数料を控除した額である。この金額差を還元率という(例えば、1,000円の支払いに対し100円の控除があった場合、還元率は90%である)。ディストリビューターにより還元率は様々であるが、手数料(配信事業を依頼する際にアーティストから支払う)の有無や金額により手数料は変わる。例えば国内大手ディストリビューターであるTuneCore Japanにおいては10分未満の曲1曲を1年間配信する場合の手数料は1,410円(税別)であり、還元率は100%である。
また、Frekulでは配信に係る手数料が無料である一方で、還元率は60%である。
YouTubeに関しても金額の多少の差異はあれど、ほぼ同様であると言える。以上が「視聴」された場合である。
次に「配信」された場合を考える(規定を正しく説明する為、文章が長くなっている。必要に応じ、各仲介業者のホームページをご参照いただきたい)。
配信において楽曲を使用する為には、著作権者から著作物使用に係る許諾を得なければならない。一般には相当の対価(許諾料)を支払う事で許諾が得られるものである。レコード会社が権利を所有する音源を使用する場合の許諾料はエイベックス株式会社の例を挙げ先に説明した為、ここでは割愛する。
インディーズアーティストにおいても同様の仕組みがあり、視聴されたケースと同じく許諾料の仲介をする事業者が存在する。国内大手のAudiostockでは、BGMとして販売する場合の初期価格を2,000円もしくは3,000円(どちらも税別)で設定している。
また、販売が発生した場合、アーティストへはシステム利用料の名目で販売金額の60~40%と、源泉徴収税の10%を控除した金額が支払われる(Audiostockでは先の還元率と同様の概念にロイヤリティが用いられている。算定式は還元率のそれと同様であり、ロイヤリティは40~60%である)。仮にシステム利用料として60%が控除される場合、販売額2,200円のBGMが1曲購入された場合、アーティストに支払われる金額は792円 (2,200×0.4×0.9)である。
上記金額はAudiostockにおける金額であり、他事業者では販売額及びロイヤリティは異なる。また、こういった事業者に委託せず、アーティスト自身のホームページ等で権利販売を行っているケースもある。とは言え、「視聴」と「配信」で支払うべき金額が大幅に異なることはご理解いただけたと思う。
「視聴」と「配信」の違いについて整理できた所で、話をYouTube配信機能へと戻す。同機能はYouTube動画の使用をあくまで「視聴」であると事務局は主張するが、それは同時にアーティストに対しては「視聴」程度の金額のみ支払うと述べているのと同意である。
筆者が事務局の姿勢に対して腹立たしく感じているのはこの点である。実態は配信であるにも関わらず、曲解した解釈を行う事で自社及び配信者が権利を有しない著作物を自由に使えるようにしているからである。
さらに言えば、事務局及び配信者はこの視聴にあたる金額すら支払う必要はない。実際に支払いを行うのはYouTubeであり、その原資はYouTubeに出稿している広告主である。
グレーゾーン解釈は著作者の為に
6月16日のアップデート以降、事務局に寄せられたYouTube視聴機能に関する意見の一部に対し、代表が以下のように回答をしているのでまず一読してもらいたい。
まず整理しておきたいのは、「グレーゾーン」という言葉が何を示しているかである。上記に挙げたような質問でも「グレーゾーン」という言葉が多用されているが、それらが何のグレーゾーンを示しているかは、質問により異なっていると考える。筆者は、上二つは法律についてのグレーゾーン(著作物をどう使うか)であり、下一つが創作活動についてのグレーゾーン(著作物をどう作るか)であると感じた。
創作活動についてはパロディ(パロディが面白いのは、パロディが元作品を連想させる為)等、作品の独自性が必ずしも担保されないジャンルも存在する。盗作(元作品を連想させない)は、元作品の独自性を脅かすものであるが、パロディの境界線は曖昧であり、一方でパロディは実社会にて市民権を得ているものであるから、一概に禁止をするということもできない。これを踏まえて、創作者のクリエイティビティを失わせずかつ従来の作品の独自性を保ち続けるためにも、創作活動におけるグレーゾーンは必要であると筆者も考える。
一方で、法律におけるグレーゾーンは(上記では、著作物をどう使うか、と読み替えている)筆者は存在し得ないと考える。著作権法が定めるのは、著作者の保護・文化の発展を目的とした、支分権を用いた著作権の定義付けである。これらが定められているが故に、譲渡可能な権利については相応の許諾料と引き換えに権利を譲渡・許諾することで、著作者は創作活動に係る費用、または自らの生活を続けていく事ができた。
ところが、法律や規約で定められていない事項があるとし、それをOKとするかNGとするかは行動する側に委ねられているとする代表の姿勢には疑問が残る。また、REALITYの利用規約にてユーザー自身で権利のクリアランスを取得する事が求められている一方で、「ユーザーが意図せず権利侵害や犯罪行為へ加担することがないよう守る」と主張するのであれば、法律にも規約にも書かれていない未定義の領域にまたがる機能を提供した行動の責任として、どういった使い方ならば適法であるかの判断をユーザー自身に促すため、まずは既に実装されている同機能の仕組みや事務局が考える適法性の根拠を含んだガイドラインを、会員に対し早急かつ明確に示すべきである。
事務局が取り組むべきは、このガイドラインの提示だけではない。
著作者の創作・生活に直結する著作物使用料について、YouTube視聴機能を介して使用された場合の支払いの仕組み、そして「視聴」名目で再生したYouTube動画が配信者のブランディングに「使用」されていることへの見解、これらを著作者(クリエイター)に向け明確にするのは、文化的コンテンツであるライブエンターテイメント事業を展開するサービス提供者としての、株式会社Wright Flyer Live Entertainmentが負う社会的責任であると考える。
それと同時に、配信に携わるすべての会員には同機能の使用には慎重になるべきであると勧告する。使用する動画の著作権者が配信者であるかどうかにもよるが、同機能を利用した配信は、YouTube上の動画を用いる事で会員自身のブランディング(配信者が思う理想の自分)を実現できるが、それは同時に他者の首を絞めることに繋がる。少なくとも私は、適切な著作権処理を行っていない動画で自らをブランディングする者について、配信者、いや創作者(クリエイター)として評価はできない。
ここまでを通じ、YouTube視聴機能は果たしてグレーゾーンにあるケースだろうか。そうではない。判例が存在していないだけである。一度判例が出れば、以後裁判所は過去の判例に従って審判を下すことができる。いまのところは大丈夫だというその発言は、判例が出るのを待っているのだと私は思う。